2022.03.01
「SEIYOいい話コンテスト」の2021年応募作品をご紹介いたします。
当社の管理物件に勤務する管理員の作品です。
「花が咲いたら」
マンションの入口に設置された花壇。
そこには草花があふれ、お住まいの方々や通行人の方々の心を癒す。
私が勤務しているマンションの入口には、そんな素敵な光景は残念ながらありませんでした。
実際には、少しのつつじが頑張って咲いているというさみしい状態。
植木屋さんにも「マンションの入口は顔みたいなものなんだから、もっと何か植えてきれいにした方がいいよ」と言われたこともありましたが、何もすることができませんでした。
ところがある日、そんなさみしい花壇の中に小さな緑色の芽のようなものを見つけました。
雑草かとも思いましたが、かわいい芽だったのでそのままにしていました。
すると、居住者様から「この前ここに土を捨てさせてもらったんだけど、これ芽が出てきているね」と言われたのです。
それは『ヒゴスミレ』という花の芽でした。
大切に育てていたそうですが、枯れてしまったので土をこの花壇に捨てさせてもらったと言うのです。
そういえば、以前捨てていいか聞かれたことを思い出しました。
きっと、その土に種が混じっていたのでしょう。芽を出しました。
そしてスクスクと良く育ち、小さな白い花がたくさん咲きました。
その花たちを見ながら居住者様と話していると、「それは、どなたが植えたの?うちも育てていたけど枯れちゃって。たくさん花が咲いてすごい」とおっしゃる方や、「かわいい花ですね」と言って立ち止まってくださる方がいたり、「うちも土を捨てていいかしら?」とおっしゃる方もいらして、その花壇の花をきっかけに、話にも花が咲きました。
その花壇の前の道をはさんで向かいのマンションには、大きな木が植えてあります。
毎年落ち葉がひどく、別のマンションの清掃をされている方と「切って欲しいわよね」と話していました。
その木に今年、真っ赤な花がたくさん咲きました。
それはそれは見事で、居住者の方の中にも「こんな花、今まで気づかなかったよ」と言って立ち止まって見ている方がいらっしゃったほどです。
通りすがりの方も立ち止まって見上げたり、スマートフォンで写真を撮ったりしていました。
コロナ渦で私たちはいろいろなことを我慢してきました。
つい下を向いて、暗い顔で歩いていたと思います。
それでも赤い花を見上げた方のお顔や、花壇のスミレを見る居住者の方のお顔は、一瞬でも晴れ晴れと癒されていたように思いました。
そんなほっと心癒される場所、皆様の輪が広がっていく場を、私も作っていけたらなと思っています。
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