ゴミステーション奇譚

2022.07.01

「SEIYOいい話コンテスト」の2021年応募作品をご紹介いたします。

当社の管理員の作品です。

 

 

「ゴミステーション奇譚」

 

私はフリーランスのディレクターとしてテレビ業界で仕事をしていました。

良く言えば幅広く、悪く言えば節操なく。『 頂いた仕事は断らない 』をモットーに民放の深夜のお色気番組からNHKのお堅い教育番組まで様々な番組を作り続け、昼夜逆行・不眠不休・暴飲暴食の日々で30年以上突っ走ってきた結果、ある日脳内出血で倒れ入院となりました。

運良く後遺症も残らず退院後は再びテレビの仕事に復帰したのですが、やはり一度出血をした脳というのは不安定になったハードディスクみたいなものですから、1分1秒に追われる世界に身を置いていると、いつまたフリーズやクラッシュを起こしてしまうかわかりません 。

そこでこれを機に生き方を見直し、とにもかくにもストレスのない健康的な生活を実践することにしました 。

 

担当していた番組は全部やめて、2020年3月より自宅から歩いて通える距離にあるマンションで管理員として週に3日、1日3時間の勤務をさせていただいています。

面接を受けた際「テレビのような華やかな世界から比べたら管理員の仕事は地味ですが大丈夫ですか」と心配していただきました。

しかし、テレビの世界は一見華やかですが、映像に映らない部分では地味な作業やたくさんの汚れ仕事をきっちりとすることで成り立っています。ですから自分としては特に抵抗もなく、この仕事を始められました。

 

とはいえ、日常の清掃や管理業務をただただ普通にこなしているだけでは面白くありません。わずかなことでも居住者様や出入りする方々を楽しませる演出を施したくなるのは長年テレビ屋として番組を作ってきた者の性(サガ)です。

そこで目を付けたのはゴミステーションでした。

新型コロナが蔓延する中、ごみ収集をされる方たちに感謝の意を表すためフリーイラスト素材を使って作ったメッセージをプリントアウトし、ゴミステーションの網にテープで貼り付けたクリアファイルの中に入れるようにしました。

これはカラスが網に止まって生ごみを突っつくのを防止するのにも効果的で一石二鳥です。さらには季節ごとにイラストやメッセージも変えていったので、やがてマンション前を通学する小学生たちも気が付いて楽しみにしてくれているようでした。

 

マンションの居住者様にも好評で、当初は前任の女性管理員さんの代わりにやってきた、短髪で強面のごっついおっさん管理員に戸惑いを覚えていたであろう方々も「あのゴミ箱のメッセージ可愛いですね」などなど、徐々にお声掛けくださるようになりました。

ゴミステーションと言えば収集日以外のごみが出ていたり、きちんと分別されていなかったりといったトラブルがありがちのようですが、私の担当マンションでは皆様がきちんとルールを守ってくださるので滅多にそのようなこともなくとても助かっています。

 

逆に私自身が木の枝を切った際に60センチ以下に切って纏めなくてはいけないのを、長いままで出してしまいゴミ収集の方々にご迷惑をかけてしまったことがあります。「いいよいいよ」と言って、その場で折って持って行ってくれましたが、これもカゴのメッセージで好印象をお持ちいただいた効果でしょうか?

 

ある時、ペットボトルだけが捨ててあるカゴの中に、大きなカブトムシが居たことがありました。

樹液の代わりに残ったジュースやコーラを吸いに来ていたのです。夏場はカナブンやカミキリムシなどもよくペットボトルゴミの中に入っています。半世紀ほど前、私が小学生の頃は現在マンションのある辺りは、一面、山と林でした。その頃はよく夏休みには自転車をこいでカブトムシを捕まえに来たものです。

子供たちはみな自分だけが知っているカブトムシが良く集まる“秘密の木”を持っていたりしたものでした。

「今は“秘密のペットボトル捨て場”だったりするのかな?」などと思いつつ、カブトムシをマンションの裏庭へ避難させておきました。

 

先日、朝、巡回をしているとゴミステーションのカゴの前に、タバコの吸殻が一杯詰まったペットボトルがそのまま置いてありました。吸殻が入ったままだとペットボトルとしては捨てられません。マンションの住人でこういう規則違反の捨て方をする人はいないので、行きずりの人やドライバーなどが置いて行ったのだろうと思い、腹立たしかったのですが、仕方ないので水分を吸って膨張した吸殻をドライバーで掻きだし燃えるごみの袋に入れ、空になったペットボトルの方は一度水ですすいでそれぞれ指定の場所に捨て直しました。

ふと下を見るとノートの切れ端に鉛筆でメッセージが書かれた紙が歩道に落ちてました。

 

『ぼくたちがかえりと中、このペットボトルをみつけました。ペットボトルをふってもたばこのすいがらがでませんでした。ここにおいときます。すいません。

○○小学校の生とより。3 年 3 組』

おそらく工事現場などに落ちていたものを拾って持ってきてくれたのでしょう。

それにしても今の子供たちはしっかりとゴミの分別という概念が身についているのだなあと感心すると共に、素直で可愛らしい手紙につい胸がキュンキュン。瞳うるうるになってしてしまいました。笑

こういう思いはテレビ屋のままでは絶対に味わえなかった感動だったと思います。

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